2023.09.24 Sunday

特捜検察の正体 弘中惇一郎

「無罪請負人」とも呼ばれる弘中惇一郎弁護士が、特捜検察の問題点を具体的な例を示しながら分かりやすく解説している。

例えば特捜事件は3タイプがあるらしく
・国策捜査型
・他の事件からの派生型
・告訴・告発契機型
と分類できるらしい。

昔であれば「政治中枢と戦う特捜」といったイメージが強いのだが、「国策捜査型」という言葉が示すように“政権の犬”になり下がった感がある。

弘中弁護士が関わった「国策捜査型」の具体例は
・鈴木宗男事件
・ライブドア事件
・小沢一郎事件
・カルロス・ゴーン事件
といった「あの事件か!」と誰もが知る事件ばかりで、それらの事件の問題点の背景が知れるのはとても興味深い。

また「国策捜査型」と「他の事件からの派生型」との混合型の事件として、村木厚子事件も紹介されており、この事件での特捜の暴走は記憶に新しいのではないだろうか。

では、何故に特捜検察は暴走してしまうのか?

暴走してしまう特捜の体質を、日々特捜と戦っている弘中弁護士の視点から紹介されており、納得させられた



それはそうと昔の特捜は田中角栄元総理を逮捕・起訴したり、リクルート事件では12人を贈収賄罪で起訴し竹下内閣を総辞職に追い込み、東京佐川急便事件では起訴総額は952億円にも及んだ。

それと比べると昨今の検察は小物ばかりを捕まえている感があり、おままごとに見えてしまうのは私だけだろうか?

2023.09.23 Saturday

問題はロシアより、むしろアメリカだ エマニュエル・トッド 池上彰

日本でも有名なフランスの知識人エマニュエル・トッドと池上彰氏の初対談本で、ロシアとウクライナの戦争が進む世界情勢について独自の視点から、鋭い指摘が出てきて面白い。

対談とは書いたのだが、実際はほぼエマニュエル・トッドの意見で(笑)池上さんが本音を話せるように上手く意見を引き出している。

序盤から「ウクライナ戦争の最大の責任は、ロシアやプーチン大統領ではなくアメリカとNATOにある」と、いわゆる西側陣営の国ではなかなか言いづらい指摘からスタートしている。

NATOの拡大化こそがロシアの暴走を引き起こしたという事なのだが、日本だと佐藤優氏がこれに近い指摘をしているが、他の一般的なメディアはなかなかこのような指摘はできないように思える。

「プーチンは狂っている」といった主旨の発言をされる専門家もいるのだが、それでは考えることの放棄に他ならない。

またロシア問題を考える際に「ロシアフォビア(ロシア嫌い)」に動かさられている地域があり、それがアメリカ以外にもバルト三国、ウクライナ、ポーランドとのこと。

これが情勢を不安定化させる要因の1つで、特にポーランドには要注意とのこと。

メディアにもロシア嫌いの傾向があるだけでなく、好戦的な傾向もあり、これらも世の中を混乱させる一因であるとのこと。



日本にいるとロシア批判の新聞やニュースばかりであるから「世界はみなウクライナ(アメリカ)を支持している」と誤解しそうなのだが、よく見てみると中立派はもちろん、ロシアに制裁を科していない国も結構多い。

アメリカの影響力の弱体化もあるのだろうが、それ以外には家族制度や宗教的な点によると指摘されている。

このあたりの詳細を知りたい方は、是非この本を読んでみてほしい!

2023.09.10 Sunday

教養としての「病」 佐藤優 片岡浩史

週3度の透析、前立腺癌、冠動脈狭窄と次から次へと襲い掛かる病に、佐藤優氏はどのような心構えで立ち向かっているのか?

佐藤氏は人生の残り時間が限られていると悟っており、冷静に残り時間で何ができるかを考えているようである。

自分の人生に限りがあるにもかかわらず、これだけ冷静でいられるのはキリスト教(プロテスタント)のなせる業で「使命を全うしたものはただちに天に召され、神に仕えるものとされている」とされているからに他ならない。

私はあまり病院にお世話になることがない身であるため、死について真剣に考えたことはあまりないのだが、ここまでの覚悟をすることは私には無理であろう。

いつもの政治問題や国際問題を解説する佐藤氏とは別の側面が分かり興味深い。

このような死生観に加えて、佐藤氏の主治医である片岡浩史医師との対談で「医師の在り方」「患者の在り方」について書かれているのだが、片岡先生はJR西日本勤務を経て医学部を志したような方で、大変人間味のある良い先生に思えた。




昨今のトップクラスの進学校では、ちょっと成績がいいと医学部を勧められ、それを学生も受け入れて、医学部に入学してしまう。

ただ「医者になりたいから」「人の命を救いたいから」という理由で医学部を受けるのではなく、「成績がいいから」「お金を稼ぎたいから」という理由で医学部を受けるため、そこでミスマッチが生じてしまう。

私が思うに、日本の経済成長が止まっている現状を見ていると、会社勤めに明るい未来を想像することができず、高校生には医師くらいしか魅力を感じる職はないのかもしれない。

2023.09.09 Saturday

最後の停戦論 ウクライナとロシアを躍らせた黒幕の正体 鈴木宗男 佐藤優

鈴木宗男氏と佐藤優氏というロシア専門家のコンビが、ウクライナ問題を解説しているのだが、日本メディアから見聞きする情報とは大きく異なっている。

「誰ですか?」逮捕された2人とか言ってる悪い子は(笑)

それは日本のメディアのニュースソースが、アメリカやイギリスからの情報に頼り過ぎているからである。

佐藤氏によると、モスクワにいる日本メディアの語学力が低く、ロシアにいれば普通に手に入る情報すら手に入れることができず、英語メディアに頼っているとのことである。

当たり前のことを敢えて言うが、ロシアがウクライナに攻め込んだことは、当然許されないことである。

ただそんなロシアの言い分を知らなければ「停戦」の提案すらできないし、ウクライナとロシア双方の情報を精査することで、真実がつかめるのではないか?

ウクライナがミンスク合意を守ったら、アメリカがNATOの拡大を目指さなかったら、この戦争は起きなかったかもしれない。

お二人とも政治家と元外交官であり、プーチン大統領とも面識もあり、やや国の損得勘定的な視点も感じてしまうのだが、こういう別の角度から見ることも重要だと思う。



また岸田首相が必勝しゃもじをウクライナのゼレンスキー大統領に持っていったり、一見すると日本外交は迷走しているようにみえるが、日本はロシアの飛行機に対して空路を空けていたり、JTがロシアのたばこ市場で40%という高いシェア率を維持していたままだったりと、何故か上手く回っているそうである。

最後に「武器の供与」と聞くと、一見良いことをしているのではないかと思うのだが、それは「この武器で戦え!」と言っているようなもので、このままでは停戦ができないという主張には納得させられてしまった。

2023.05.23 Tuesday

夜明け前(が一番暗い) 内田樹

内田樹氏のAERAでの連載、2018年7月30日から2022年11月21日のものを分野別に分けて書籍化したもので、元々は雑誌のため読みやすい。

新型コロナウイルスへの対処、東京オリンピックを開催すべきか否か、旧統一教会問題、安倍氏国葬の是非といったテーマについて内田氏がその時々の見解を述べる。

どうしても今から見ると古い情報もあるのだが、その見立てが正しかったのか、はたまた見当違いだったのかをチェックできるのでその点は面白い。





この本を読みながら改めて感じたことは、日本がどうしても劣化しているように思えてならない。

「また日本が貧乏になった(2021年3月8日号)」というテーマで、森喜朗の女性蔑視発言について触れているのだが、その際に出てきた言葉で「わきまえておられる」という発言がある。

これは「身の程を知れ」ということなのだろうが、高度成長期の日本では「身の程をわきまえず」野心と欲望に衝き動かされた時期だったそうで、そのおかげで日本は復興できたのである。

その高度成長期には当然「わきまえろ」なんて言葉は聞かなかったそうで、そう聞くとやはり今の日本には明るい未来がみえづらい…

2023.05.13 Saturday

政治はケンカだ! 明石市長の12年 泉房穂

暮らしやすい街づくりだけでなく、暴言問題なども含めて、良い意味でも悪い意味でも有名な元明石市長である泉房穂氏の考え方を知りたくて購入。

市長時代の日々のエピソードに加えて「議会論」「政党論」「役所論」「宗教・業界団体論」「マスコミ論」「リーダーシップ論」といった独自の斬新な考え方を聞けるのが面白い。

明石市の漁師の家庭に生まれ、東大に進学し、NHKに入社後テレビ朝日に移り、政治家秘書、弁護士を経て政治家に。

こう聞くと順風満帆なエリートの経歴にしか見えないのだが、幼少時代は貧困で苦労したそうで、世の中の不条理に抗いたくて10歳の時に「将来明石市長になる」と決心したそうである。

今の時代なら、貧困な家庭に生まれたにもかかわらず東大に進学し、政治家になるということはほぼ不可能なので、泉氏はこの時代に生まれたこので活躍できたのだと思えてしまう。

市長として市議会とのやり取りが大変だったそうで、vs自民党、vs公明党には苦労したそうなのだが、日本維新の会と日本共産党は賛成してくれることが多かったそうである(笑)

水と油の関係である維新と共産党に協力してもらった数少ない首長とのこと。

日本維新の会と言えば、橋下徹氏とは司法修習の同期らしく、考え方は違えど頻繁に交流しているそうで、パワハラ報道が出た際にも連絡を取り合う中らしい。

また立憲民主党に関しては、自民党に対して以上に手厳しかった(笑)

自分が進めたい政策を進めるにあたって、議会が障壁になったのはもちろんだが、それ以外にも副市長をはじめとする職員も大きな障壁になったそうで、自分の進めたい政策を進めるにあたって色々とやり合ったそうである。

この泉氏は社会人経験や行動力があり、なおかつケンカも辞さない覚悟がある方なので、議会や職員とやり合いながらも政策を進めることができたが、普通の首長ではなかなか難しいのではないか?

関西の某市で新しく若い市長さんが誕生したが、東大→ハーバードといった経歴は素晴らしいが、社会人経験はなくなおかつケンカなどしたこともなさそうなので、議会や職員に取り込まれてしまいそうでならない。



個人的には、泉氏の話を聞きたいのにインタビュアーの鮫島浩氏が前に出過ぎてしまい、飯島氏の考えに泉氏が頷くだけになってしまうところも見られ、その点がもったいなかった(特にマスコミ論)

2023.05.03 Wednesday

世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道 中野剛志

私は政治がテーマの本を読むことが多く、経済がテーマの本を手に取ることはあまりないのだが、急速に進んでいる世界インフレを扱っており、気になるテーマだったので購入してみた。

中野剛志に関してはTPP亡国論で有名な方で、その印象が残っており読みやすいだろうと期待して購入したところ、想像以上に分かりやすく買って正解だった。

書き出しはグローバリゼーションについてから始まるのだが、グローバリゼーションの進展度合いは貿易開放度(GDPに占める輸出入の合計の比率)から判断できるとのこと。

ただこの数値が2008年がピークであり、その後は伸びていないとのことなのだが、という事は新型コロナウイルスやロシアのウクライナの侵攻以前にグローバリゼーションはすでに終わっていたのである。

ちなみに、この2008年というのはリーマンショックの時である。

そしてこのグローバリゼーションの終焉がこのインフレを引き起こしているのだが、そのインフレには

「コストプッシュ・インフレ」供給減少で物価が上昇
「デマンドプル・インフレ」重要過剰で物価が上昇

という2つのインフレがあるそうである。



現在の世界を覆っているインフレはもちろん「コストプッシュ・インフレ」なのだが、こういう状況では積極財政が必要不可欠である。

ところが、どこかのアホな国では増税を検討しているのだから、政治家のレベルの低さを嘆かずにはいられない…

またインフレの話とは少しズレてしまうのだが、リベラリズムに関する説明が分かりやすく自分が他の人に説明しなくてはならない場面で活用させて頂こうと思った。

2023.05.02 Tuesday

国難のインテリジェンス 佐藤優

佐藤優氏がホストとなって、各界の有識者とそれぞれのテーマで対談し、問題の解決策を考える。

◆新井紀子 DXで仕事がなくなる時代をいかに生き抜くか
◆藤井 聡 巨大地震とデフレが日本を滅ぼす前に
◆三浦 展 男性は結婚できると中流意識が持てる
◆中谷 巌 資本主義にいかに倫理を導入するか
◆河合雅司 人口減少が進む日本で「戦略的に縮む」方法
◆柳沢幸雄 毎年1000人海外へ「現代の遣唐使」を作れ 
◆岩村 充 変容する資本主義と経済成長時代の終焉
◆菊澤研宗 人間は「合理的」に行動して失敗する
◆君塚直隆 現代の君主制には国民の支持が不可欠である
◆八田進二 「禊」のツールとなった「第三者委員会」再考
◆戸松義晴 仏教は「家の宗教」から「個の宗教」へ向かう
◆清水 洋 「野生化」するイノベーションにどう向き合えばいいか
◆國頭英夫 財政破綻を目前に、医療をいかに持続可能にするか
◆五木寛之 「老大国」日本が目指すは「成長」でなく「成熟」

上記のような錚々たるメンバーとの対談で興味深いテーマも多いのだが、14名との対談を新書に詰め込んだためか深い議論とは言い難かった。

ただ開成中学校・高等学校校長を務めた柳沢氏の「現代の遣唐使」という考え方で、優秀な学生を4年間海外で学ばせるための費用を国が出すという考え方は興味深かった。



企業で働く者としては、会計のプロである八田氏の「第三者委員会」に対する考え方で、企業や組織で不祥事が発生した際に「第三者委員会」を設置して原因究明にあたり問題解決に努めるという話をよく聞くが、実際は「第三者委員会」は対して機能していないことを分かりやすく解説してくれていた。

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