2021.08.25 Wednesday

人質司法 高野隆

日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏の弁護でも有名な高野隆弁護士による、日本の司法制度、日本の刑事裁判の問題点を解説してくれている。

表紙からゴーン氏の事件の解説本にも見えてしまうのだが、日本の刑事裁判の問題点の一例としてこの事件を取り上げているにすぎないので、その点は注意が必要である。

高野隆弁護士によると
・取調べ受忍義務
・接見禁止
・罪証隠滅防止のための拘禁
・拘禁手続きの形骸化
この4点が問題とのこと。

「取調べ受忍義務」についてだが、刑事訴訟法第198条第1項によると
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。
但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
となっている。

この但し書きが曲者で、捜査機関は自由に取調べしたいがために、被疑者を気軽に逮捕してしまう。

そして気軽に逮捕を許してしまう裁判所にも問題が多いとのこと。

「接見禁止」についてだが、刑事訴訟法第81条によると
裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人と第39条第1項に規定する者以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、若しくはこれを差し押えることができる。
但し、糧食の授受を禁じ、又はこれを差し押えることはできない。
となっている。

「逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」というのが漠然とし過ぎており、具体的な理由を示さなくても接見禁止にできるのである。

これは人によっては精神的に大きなダメージを与えるようで、新型コロナウイルスによる外出禁止などが原因で、大きなストレスを感じた方も多いと聞く。

また「接見禁止」の際は、被疑者の家族や勤め先との連絡を弁護士が担うことになってしまい、これでは本来の業務である弁護に集中できなくなってしまう。

これは国際法上も問題で、他の先進国ではありえないそうである。

「罪証隠滅防止のための拘禁」については、黙秘権を行使、無罪を主張するなど捜査機関と戦う主張をした場合、ほぼ間違いなく拘禁されてしまう。

長く拘禁されてしまうと、例え無罪を勝ち取っても社会生活の面でも大きなダメージを受けてしまい、そうならないように本当はやっていないのに自白したほうがいいとアドバイスする弁護士もいるのは仕方がないのか。

もちろん許されるはずがなく、これぞ人質司法と言われる状況を改善する必要がある。

「拘禁手続きの形骸化」に関してだが、これは検察官が裁判官に請求すると簡単にできてしまうのだが、このやり取りに弁護士がほとんど携わることができないのである。

身柄を抑えるという大事な場面で、弁護士が蚊帳の外なのは異常だと思う。



こういう事を書くと、被疑者の味方なのかと思われそうだが、たまたま自分が事件現場の近くにいて嫌疑をかけられた場合を考えてほしい。

上記のような司法の現状を聞くと、無罪を主張することはできるのだろうか?

2021.08.13 Friday

菅義偉の正体 森功

「叩き上げの苦労人」などと称される菅義偉総理だが、これは作られたイメージで現実とは大きく異なっている。

そのあたりを調査するため、まずは菅義偉のお父さんである菅和三郎さんの生い立ちから話はスタートする。

この菅和三郎さんは、太平洋戦争時に満州に渡り、かなり苦労をされた方である。

終戦後は秋田に帰り、自分の名前にちなんだ「ニューワサ」というブランドを立ち上げ、農協に頼らず自ら販路を開拓するなどやり手の経営者だったようである。

仕事の面だけでなく、周りの方々の面倒も見るようなリーダーシップのある方だったようで、「自助」「共助」「公助」でいうところの「共助」を重視する方のようである。

あれっ?某総理は「自助」を重視していなかったっけ?

このような家を飛び出し、東京に進学した菅義偉は、卒業後に小此木彦三郎の秘書になり政治家としての人生をスタートさせる。

この秘書時代に、地元の鉄道会社を中心とした人脈を構築し、横浜市議会議員時代にそれをさらに発展させ、その人脈を今日まで活かしているようである。

その中心となるのが藤木企業の代表である藤木幸夫氏なのだが、この方はカジノに大反対しており、菅政権が進める統合型リゾート(IR)計画が今後どうなるのか注目される。

そして国政へ進出していくのだが、小泉政権時に竹中総務大臣の下で総務副大臣になり、ここから表舞台に進んでいく。

悪名高き竹中平蔵に師事したため、新自由主義的な政策が多いのはこのためか?

その後、総務大臣や官房長官を経て総理の座を射止める。

こう書くと立身出世のきれいなエピソードのようだが、権力を得るにつれて利権の匂いが強くなっていく…

そのあたりはぜひ本書で確認してほしい。



著者の森功氏は、菅義偉の家族、後援企業の代表、菅義偉に近い議員、そして菅義偉本人といったところに取材を試み、ほかの方ではあまり聞けない内容を見事に取材している。

どちらかというと敵対している相手とその関係者に取材を申し込み、なおかつ的確なコメントを引き出す森功氏の取材力には脱帽させられる。

2021.08.10 Tuesday

真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960 池上彰 佐藤優

佐藤優氏は「左翼の時代」が再び到来すると思っており、その前に日本の近現代史を「左翼の視点」から捉え直す作業を行なうことが、今後の時代を生き抜く道標になると考えているとのこと。

現在の社会の大きな問題となっている「格差の是正」「貧困の解消」は、左翼が掲げてきた論点そのものである。

そこで今までも多くの共著を出してきた池上彰氏と、対談形式で振り返る。

序章で「左翼とは何か?」について解説している。

日本のメディアで、野党側をリベラルと称しているのをよく目にするのだが、多くの人は「リベラル=左翼」と思っていないだろうか?

本来の意味では、リベラルは自由主義者であるため左翼とは対立的な概念なのである。

また共産党と社会党の違いを、お2人の独自の視点で解説している点も面白い。

このように序章にて、左派の概要を予習したうえで本編へ。



第1章 戦後左派の巨人たち(1945-1946年)

第2章 左派の躍進を支持した占領統治下の日本(1946-1950年)

第3章 社会党の拡大・分裂と「スターリン批判」の衝撃(1951-1959年)

第4章 「新左翼」誕生への道程(1960年-)

このように時代ごとに細かく区切って、太平洋戦争終了後からさかのぼっていくのだが、戦後の混乱期に日本社会党と日本共産党それぞれに大物がいて理論武装をしていった。

正直初めて聞いた名前も多く読み終えるのは大変だったが、とても勉強になる1冊だった。

ちなみに池上さん148ページの朝鮮戦争は1952年ではなく、1950年開戦です。

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