2023.03.31 Friday

名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点 長谷川晶一

港東ムースという野球チームをご存じだろうか?

1988年に誕生したリトルシニアの野球チームなのだが、このチームの監督を引き受けたのが野村克也氏で、オーナーが野村沙知代氏という最強コンビ(笑)

このチームの誕生にあたっては、当時中学生だった克則くんも在籍していたリトルシニアのチームが様々な内紛で崩壊寸前だったこともあり、同級生の親御さんたちに頼み込まれたとのことなのだが、引き受けてしまうのがノムさんらしい。

その後野村監督は自らの人脈を活かし、ジャイアンツの多摩川グラウンドや神宮球場の室内練習場の使用許可や、練習道具もプロ野球関係者から譲ってもらったらしい。

この頃の野村監督は、ヤクルトスワローズの監督を引き受ける前で現役引退から7年が経過していたが、子どもたちに「バッティングのお手本を見せてやる!」とすべてのボールをホームランにしてしまう。

今でいうと大谷翔平のバッティング練習を見るかのような衝撃的な出来事で、子供たちが野村監督に心酔していく。

チームは強豪チームを撃破していき、最終的には全国制覇を成し遂げるのだが、ポジションがキャッチャーの子を自分の横に座らせ配球をあれこれ指導したり、キャッチャーで肩が強いだけでなく俊足だった子をセンターにコンバートして1番打者にしたり、アンダースローの投手に右打者のインコースを攻める球種を覚えさせたりと、ヤクルトスワローズでの成功事例はすでにリトルシニアの監督時代に実践済みだったのだ。

また練習もトリックプレーの練習など、かなり実践向きな練習を行っており、正直こういう経験ができたナインが羨ましくも思えてきた。



このようにチームが強くなるエピソードも興味深かったのだが、母子家庭で生活が苦しい中を野球に打ち込む少年と野村監督とのエピソードは泣ける!

野村監督のアマチュア野球への取り組みは本当に素晴らしく、この本の中でも紹介されているシダックス時代のエピソードを紹介している「砂まみれの名将 野村克也の1140日 加藤弘士」も興味がある方は読んでほしい。

2023.03.28 Tuesday

国商 最後のフィクサー葛西敬之 森功

国鉄の分割民営化に尽力し、民営化後はJR東海の社長や会長としてグループを引っ張った葛西氏。

国鉄時代は、この本の中でも出てくる井手正敬氏、松田昌士氏と共に「国鉄改革3人組」と呼ばれ、ある時は協力し、またある時は競争しながら組織内で存在感を増していった。

のぞみの導入をはじめとした新幹線の整備、最初はあまり乗り気でなかったがリニアモーターカーへの思いなど1人の鉄道員として日本の鉄道整備に尽力してきた生涯がよく分かる。

またそれに加えて、国鉄民営化の際には労働組合と協力関係を取り付け、その後の連絡調整役を担ったりもしていたのだが、晩年は保守の考えを前面に押し出し、保守系の政治家の支援などを行っていく。

特に安倍政権の後ろ盾になっていた事は有名で、重要な役職の任命にも深く関与していただけでなく、ご自身も国家公安委員など政府の重要な役職を担っていく。

そのあたりの背景を、森功氏の徹底した取材をもとに詳細に書かれている。



この方への評価は難しいと思うが、国鉄民営化の背景を知りたい方、安倍政権時代の官邸がどのようにして官僚をコントロールしていったかを知りたい方にはぜひ読んでほしい本である。

個人的には国鉄のエリート(JR以前に入社した方)は「自分達が日本のインフラを支えているんだ」という誇りをお持ちのようで、霞が関の省庁の役人相手にも堂々と交渉していたという話が、私の祖父も国鉄職員だったため強く印象に残った。

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